南相馬修道院からの便り

「私の召命」


福島民報新聞に蟻塚先生の記事を見つけました。
精神科医の蟻塚先生は、沖縄戦の後遺症で80歳を超えてなお遅発性PTSD(心的外傷ストレス障害)を発症した
女性たちの治療にあたってこられました。
「生きて、生きて、生きろ」というドキュメンタリー映画に出演しておられます。
東日本大震災、津波、原発事故の三重の苦しみ。
その上に、故郷を失い、家族や地域の共同体がバラバラになり、生業さえも失い、
新しい地での生活では差別や中傷(原発の賠償金と津波の自然災害の補償金の違いもあって)など、
想像を絶する苦しみの体験は、一人一人の被災者の心に大きな傷を残しました。
日頃は意識しないで、明るく前向きに生きておられる人でも、
ちょっとした出来事や、不用意な言葉などで思い出させてしまうことがあります。



8月8日の福島民報に、昨年春、町の一部の避難指示が解除された浪江町について、
福島大学災害心理研究所が発表した調査結果が報道されていました。
「東京電力福島第一原発事故の避難指示解除後、浪江町に帰還した町民は、
町外に転居もしくは避難している町民よりストレスや抑うつを強く感じている傾向がある――。・・・・
調査に携わった筒井雄二所長は『帰還が住民の精神的健康につながっていない可能性がある』と指摘する。・・・・
帰還者が転居者よりも、精神症状を感じ、主観的幸福度が低かった。
理由について筒井所長は、人間関係の希薄さや古里の景色の変化などが影響していると推察している。・・・・」

この問題は大きな社会的問題で、ここ福島だけの問題でなく、
能登の大地震や台風、豪雨による災害で、土地を失い家族を失い、生業を失った多くの方々に起こりうることであって、
災害の巨大化している現代の大きな課題だと思います。
周囲の人々のこまやかな心遣いと親身になった寄り添いが必要とされます。
一時的な支援だけでなく、息長くつながって忘れられていないこと、
心にかけて、本音を分かってくれている人があることが大切だと思います。

人間関係の希薄な現代社会に、投げかけられた課題です。



「私の召命物語」

10月号で、私がカトリックの洗礼を受けたこと、援助マリア修道会に入会したことを語りました。
カトリックの受洗について、当時未成年の洗礼は親の承諾なしにできませんでした。
それで高校3年生だった私は、母に洗礼を受けたい旨を話しました。
母は私の話を聞いて、こう言いました。文言まで覚えています。
「信仰はアクセサリーじゃないですよ。気に入らなくなったから外したり、
用がないと捨てたりするものでなくて、生き方の問題です。
あなたがその生き方で幸せになれると思うなら、
あなたは自由です。どうぞ」と。
私は、母のこの言葉に、信仰についてもっと真剣に考えることが出来、
「はい」と答えて、高校3年生のクリスマスに、カトリック福山教会で洗礼を受けました。

高校卒業後、紆余曲折あって、日本鋼管の福山への誘致のための会社に就職しました。
勤務時間はきっちりしていたので、勤務の後、毎日のように祈るために教会に通いました。
自分の生き方を探していたように思います。
夏に教会の留守番のために来られた神父さんが、
聖母会(未婚の女性の会)で「この世界は多くの修道者の祈りに包まれている」と、修道生活について話してくださいました。
ああ、そんな生き方もあるのか、そういえば、卒業した高校にシスターがおられたと、この時意識しました。
それまで、父親のいない家庭に育った私は、お父さんのいる家庭を夢見ていました。
結婚して家庭を作ることしか考えていなかった私に、別の生き方もあるよという呼びかけでした。
結婚して自分の幸せを求めることもいいけれど、たった1回きりの人生、何かもっと多くの人に、
神様に愛される幸せを伝えていく道はないかと思うようになりました。
そんなことを考えていたある日、人生を考える黙想会の誘いを受けて、
下関の援助マリア会修練院で5日間の黙想をしました。

援助マリア会の創立者、マリー・テレーズ・ド・スビランが、19世紀のヨーロッパ産業革命の時代に、
田舎から都会に働きに出てくる若い女性のために始めた「家族の家」のことが、とても気に入りました。

ちょうどその頃、私の2番目の姉が、京都で看護師として働いていたのですが、
その当時、看護師の待遇改善のためのストライキに参加したりして、
母に届く手紙の内容が危なっかしくなって、母は姉を家に呼び戻そうとしていた頃でした。
親元を離れて、いろいろな価値観の中で翻弄される若い女性の姿と重なりました。
私も自分の幸せだけでなく1回きりの人生を、誰かのために賭けたいと思ったのです。
マリー・テレーズの生き方に倣いたいと思いました。

母に話すと「あなたの人生をお母さんが歩むことはできないのです。
あなたの人生はあなたしか生きることができないのです。
その道が自分の幸せなら、あなたは自由です。」と言って許してくれました。


今日はここまで、皆様良い日々をお過ごしください!!

援助マリア修道会 南相馬修道院 北村令子





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