南相馬修道院からの便り 「トリチウム汚染水の海洋放出について」


日本各地で大雨災害が起こっていますが、南相馬は今のところあまり激しい雨でないので、ほっとしています。
優しい太陽に微笑んでもらいたいですね。

今回は、トリチウム汚染水について少し詳しくお話しします。
政府は、今年の春から夏にかけて、汚染水の海洋放出を実施するという閣議決定をしています。
現地の人々の理解を得てという大条件が満たされていないにもかかわらず。

トリチウム汚染水のことを、報道では「処理水」と呼んでいます。汚染というマイナスイメージを
少しでも薄めたいのかもしれません。
確かに、多種の放射線物質を除いて(処理して)トリチウムだけが残ってしまうので
「処理水」といわれるのも頷けるのですが、
やはりトリチウムが残っているのですから「汚染水」と呼んでもよいでしょう。

「汚染水」は、地下水と雨水が放射性物質を含む建屋に流れ込んで、
放射線に汚染されてできるので、増え続けるのです。
福島第一原発のある地域は、地下水の豊富な土地なのだそうです。
そのために原発を建設した当初から地下水に悩まされ、
サブドレンという地下水をくみ上げる井戸を、57本設置し、
原発稼働中も一日当たり700㎥(25mプール2杯分)を毎日くみ上げていたそうです。
現在、敷地にこの大きな保管用処理水タンクが1060 基以上あります。
間もなく、敷地に収まらなくなるとのことで、海洋放出という結論に達するでしょう。
しかし敷地はまだまだ7 号機、8号機の建設予定地があると聞きます。
以下は、福島県の「ふくしま共同診療所 医師連絡会」が発行している冊子「被爆・診療 月報」から
抜粋した記事です。(2022年12月1日発行)


約束を反故にした暴挙
政府は2023 年春から福島第一原発敷地内の放射能汚染水を海洋放出することを閣議決定した(2012年4月13日)。
東京電力も、海底トンネル排出孔の建設を地元の許可なく始めるなど着々と準備を進めている。
汚染水の海洋放出については、
福島県内の7 割を超える自治体が反対もしくは慎重な対応を求める決議や意見書を議決している。
加えてこの決定は、東京電力社長と経済産業大臣が福島漁連と約束した「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」
という文書を反故にするものである。岸田首相も約束違反ではないかという国会での質問(2022 年3 月10 日)に、
放出決定の変わりはないことを強調し、「理解を得られるよう努力する」などと繰り返している。
その姿勢は県民や漁業者の意向を無視した暴挙といえるもので、厚顔無恥な居直りそのものである。
このままでは来年3 月の海洋放出は強行されてしまう可能性が高い。

有機結合型トリチウムの危険性
現在貯蔵されている汚染水は、排出基準すら守れなくて貯蔵せざるを得なかったものである。
2018年9月には「トリチウム以外は除去できる」とされていたALPSで処理した汚染水の80%で、
ストロンチウム90やヨウ素129などが残っていることも判明している。
トリチウムだけに関しても、半減期は12.3年、リスクが無視できるレベルに低減するまでに120年以上かかる。
しかも生物の体内に入ると一部が有機結合型トリチウムになり、
体の組織に取り込まれて長く留まることが知られている。
DNAに取り込まれた場合、弱いエネルギーでもその化学結合を切断する。
2ヶ所以上が切断されると、誤った修復になる恐れがある。

タンクに貯蔵されている汚染水には微生物の存在も報告されている。
そうなると汚染水の一部は有機結合型トリチウムとして海洋放出される恐れが出てくる。
このような恐れを政府はまったく考慮していない。
ドイツ政府は原子力発電所の周辺で子供たちの白血病が有意に増加しているという
疫学調査結果を公表した(2007年)。
これについてトリチウムの被ばくが原因ではないかという仮説が展開されている。
トリチウムの健康影響を無視してよいとの考えは「科学的」でも「正確」でもない。

海洋放出を阻止し豊かな漁場を守ろう
東電は、20年1月の時点で、トリチウム総量を2069兆ベクレルと評価している。
タンク貯蔵量は860兆ベクレルだが、
事故当時のまま手つかずに高濃度の汚染水がたまっている建屋もあるからだ。
1キロの海底トンネルを経て福島沖に放出された汚染水は、広範囲に均一に薄まることが想定されている。
しかしこの想定は事実と異なる。潮の流れは複雑で、3層に流れることが知られている。
地形によっては濃度の高い場所ができても不思議ではない。
放出されたトリチウムが海洋生物に取り込まれ、これを食料とする人間に戻ってくるのである。
福島の海は、南からの日本海流と北からの千島海流がぶつかり合う潮目になっているため、
よい漁場に恵まれている。
いわき市ではカツオやイワシなどを獲る沖合漁業が、
相双地方ではヒラメやカレイなどを獲る沿岸漁業が主に行われている。
この豊かな漁場をこれ以上汚染させてはいけない。

後略


本当にこれ以上漁場の汚染も、漁師を生業としておられる福島・浜通りの人々を苦しめることは許されないと思います。
トリチウムは安全だというのですが、また安全神話で取り返しのつかないことにならないとも限りません。
もっともっと慎重に議論をして納得のいく解決策を求めたいと思います。
この写真はトリチウム処理水を小瓶に入れて見学者に無害ですよと説明するものです。
(ちょっと見えにくいですが、右から2 番目の私が手に持っている小瓶がトリチウム水)昨年、
原発視察をした時の写真です。


今日はここまでとします。
皆様お元気でお過ごしください。

援助マリア修道会 南相馬修道院  北村令子




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