南相馬修道院からの便り 「柚子の気持ち」


(小高修道院の庭に咲くざる菊 昨年の写真)

夏のある日の小高工房での会話より

小高工房が今年発売した新商品「ゆずのきもち」(柚子胡椒)を廣畑さんが手に取って、
「昔、小高のどの家の庭にも梅と柿と柚子の木が必ず植えられていた。
ゆずは毎年たわわに実って、食卓にさわやかな香りをもたらしていた。
それが原発事故によって実っても、採って食卓にあげることができなくなった。」と。

私が「桃栗3年、柿8年、柚子は酸い酸い13年」と言うと、
「ここでは『柚子はバカヤロー18年』って言うんだ!」と。
実がなるまでそんなに長くかかる柚子の木が、
放射能汚染によって採ることのできない物になってしまって、
多くの農家は、なってもなりっぱなし、放りっぱなしに。
あきらめて柚子の木を切り倒した農家も多いようです。


廣畑さんは、 「ゆずの木に実がたわわになって、放りっぱなしになっているのを見て、
何とも心が痛くって、何とかならないものかと考え、線量を測ってもらったら、
『出荷できますよ」と言われた。もう、どうにもならない物ではない!!
この柚子の実を活かす方法はないかと考え付いたのが、柚子胡椒!

柚子の気持ちになってみたら、
『もう僕、大丈夫なんだけど、誰も見向きもしてくれない!
このさわやかな香りと、酸っぱいけど、きりっとしまった酸っぱさが何とも言えないのに、
みんなダメだと思って見向きもしてくれない!』

そんな柚子の気持ちを考えていたら、なんと!小高の私たちの気持ちと重なることに気が付いたのです。
私たちもいつまでも被災者でなく、普通の生活戻っているのです。
同情を寄せてくださることはありがたいけど、いつまでも憐れみのまなざしでなく、
普通に一生懸命生きている者として、対等に接していただきたい。もう私たち大丈夫なんです!と」

(東京教区ニュース8/1付395号の聖心会穎川政子シスターの記事「ゆずのきもち」も参照)


(この写真は小高工房の陳列棚です。写真がうまく一つにつながらなかったのですが、ちょっと写真をずらしてみてください。
大蛇もびっくり激辛カレー、大辛カレー(この時品切れ)、坦々焼き豚、辛油、ゆずのきもち、うまくて生姜ねぇ、などの商品。
肝心の三色の唐辛子が写っていないのが残念。)


またある日、官民合同ティームの経済産業省の方が小高工房を訪れてくださった。この方は、
3年前まで、小高の事業所起業のための補助金申請の支援をしてこられた方で、
廣畑さんも小高工房を軌道に乗せるための補助金申請のためにお世話になられたとか。

このお二人の久しぶりの出会いの中での会話を興味深く聞かせていただきました。
「小高工房は元気にやっていますか?」、「はぁ—、何とかぎりぎりの線で!」、
「廣畑さんには本当に感心するよ!自費を投じてここまでやって。」
「お金は上から降ってくるものではないんですよ。上から降ってくることに慣れてしまっちゃいけないんですよ。
頑張らなければ、消えていくのがこの世界の普通のことなんだから」、
「そうだよね、いつまでも補助金に頼ってちゃいけないんだよね。」、「普通に生きることは、毎日気が抜けないんですよ。
キリキリで、トントンでいいんです。それが普通のことだから。」

今まで当たり前に思っていた普通の生活が、地震、津波、原発事故で壊されたこの地の住民の方の、
普通の生活
への強い思いを感じました。
もちろん事業を軌道に乗せていくための補助金の支援を否定しているわけではありません。
支援がなければ、やっていけないところもあるでしょう。ただ、それに甘えない姿勢に私は感動しました。

あの生業裁判訴訟の記事の中で、筆者の娘さんが書いていた、
「普通の生活が望めない」苦しみを抱えた方がまだまだ多くおられることにも心を向けたいと思います。

災害復興団地の方の中にも、自分たちは被災者の意識はもう卒業したという方もおられます。
と同時に、津波で行方不明のまま、遺体の上がっていない方は、いろんな場面で思い出されて、
重い気持ちをいつまでも抱えて、すっかり軽い明るい気持ちになれない方も多くいらっしゃることも事実です。
被災者意識を卒業したと言う方の中にも、地震があるたびに、フラッシュバックで振出しに戻る方があることも事実です。


(毎週火曜日に、小高工房で開く「なんばんひろば」でパステル教室をしています。
聖霊会のシスター村上の指導で。先生のようにうまくできませんが、楽しいです。8月末の作品)

一人一人の事情が全く違うのと、一人一人の歩みも違うので、
一様に物事を片付けられません。
この地域の人々の複雑な心境を思うと、私たちができることは、ただ共に生きて、
誰も一人ぼっちではないよと、存在で伝えることしかできません。

とは言え、外部者だからできることもあるようです。
そのことを探して、心の痛む人々の傍らで、そっと寄り添っていければいいなと思っています。


今日はここまでとします。  
皆様 お元気で!

援助マリア修道会南相馬修道院  北村令子






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